当店は今年創業119周年そして来年は創業120
周年を迎えます。そして私で4代目となるわけです
が、私が長い間疑問に思っていたことがある商品の
開発をきっかけにその疑問が解決していったことをこ
のHPを通じてお話しようと思います。
その疑問とは「なぜ絹の着物はその糸によってしわになったり、
発色に差が出てしまうのか?」ということでした。
もちろん糸の質や染料のよしあし、そして染めるときの天候や気象条件によっても風
合いが異なってくることは先輩方から教えられておりました。
いろいろ調べていくうちにそれらの原因の中で染料のよしあしや染めるときの気象条
件よりももっと大切なものは糸そのものの中にあるということが分かってきたのです。
さらに調べていくうちに最近では製造されなくなってしまった方法で作る「生繰り」とい
う製法で作る絹糸があるということを知ったのです。
通常、絹糸は蚕が口から糸を吐き出し繭を形成して行った物を120度の熱風で乾
燥させ、保存しておいてから必要なときにお湯で煮込んでから一本の糸に生成して
ゆきます。そしてその出来上がった絹糸をきものに織り込んでいき、その後染め加工
が施され一反の反物になって行きます。しかしこの「生繰り」という製法はまったく違
います。まず蚕が自分の口から吐いた糸を体の周りに巻きつけて繭を作ります。ここ
までは前者と一緒なのですがここからが違います。蚕が繭を完成させたその瞬間か
ら約10日間ほどの間にそれも120度の熱風で乾燥させないで生のままでゆっくり
と糸を紡いでしまう方法です。
つまり中の蚕が生きている間に紡いでしまうのです。その結果糸は乾燥させるために
あてた熱風で傷むことなく蚕から吐き出された風合いそのままの状態で出来上がる
わけです。そしてその出来上がった反物は糸にほとんど負担がかからないためびっ
くりするほどしわにならず、さらに通常の反物と比べ染料を吸収する力が6倍も
強いということなのです。
結果どういうきものが出来上がるのかといいますと、とてもいい色のしわにならない最
高級のきものが出来上がるということなのです。しかしこの絹糸には欠点もあります。
それは中の蚕が10日間すると繭を食い破って出てきて我になってしまうからです。
(つまり120度の熱風は中の蚕を殺すと同時に保存する意味もあった訳です。)
その10日間しか糸を取ることができないのです。従ってそのできる量は極めて少量し
か取れないのです。普通の反物が1500反取れる間に1反の割合でしか取れません。
私はこの糸を使った反物を最初に問屋さんにお願いしてみました。問屋さんでは手
間のかかる割に数ができないので商売にならないと断られました。
しかし私はどうしてもこの糸を使ったきものを皆様に使っていただきたいという気持ち
にかられ、群馬県のとある養蚕農家にお願いして製造することに成功しました。
今回ご紹介する黒紋付は「まぼろしの生絹」という名前で皆様にご紹介いたします。
お嬢様がお嫁に行くときには必ずご用意される「黒紋付」ぜひこの機会にご覧いただ
けたらとても幸せです。
追伸この糸の製法は遠く奈良時代から伝承されています。
その証拠に奈良の法隆寺「正倉院」の中にこの製法で作られた絹織物が今も現存
しています。
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